メディア掲載
10月 01, 2013
Gengo訪問!
以前、クラウドソーシングの特集エントリでもちょこっと紹介した、Gengoというベンチャー企業を訪問しました。
増資を終えて引っ越したばかりのオフィスには、日本人以外のスタッフがいっぱい! 渋谷のベンチャー企業としてはかなり異色な雰囲気です。私も久しぶりに英語でインタビューすることになり、けっこうオヨヨな状況でした(←オヨヨ古すぎ)。
<全体ミーティングの様子。渋谷とは思えないインターナショナルな雰囲気>
今回、お会いしたのはFounder/CEOのロバート・ラング氏(右)と製品開発責任者の徳生裕人さんです。
徳生さんが「彼女は超人気ブロガーで、取材してもらえるなんてスゴイことなんだ!」と紹介してくださると、ラング氏は「へー、そうなの? それは光栄です」みたいな感じで笑えました。
★★★
皆様ご存じのように、これまで翻訳といえば、記事・論文や書籍、ビジネスドキュメントに契約書など、企業や大組織を顧客として、専門の翻訳家が訳すプロフェッショナルサービスと、無料ではあるけど品質が「なにコレ?」状態な機械翻訳しかありませんでした。
そこに Gengoは第三のオプションとして、「誰でも手軽に使え、迅速、安価かつ高品質な翻訳サービス」という選択肢を用意したわけです。
資料提供 Gengo、すべての資料は2013年7月時点のものです。以下同じ)
最初の頃はラブレターの翻訳依頼もあったという Gengo、私もこの点は画期的だと思います。だって、上図では2つのオプションが3つになったように描かれているけれど、個人目線で考えれば、“使える翻訳サービス”はこれまで皆無でした。
機械翻訳のレベルはいつまでたっても改善しないし、プロフェッショナルサービスを個人が私的な目的で使うことは、ほとんどなかったはず。つまり個人顧客の視点にたてば、選択肢は“2つから3つ”になったのではなく、“無から有”に変わったのです。
しかも Gengoで翻訳を担当するスタッフは、クラウド・ソーシングで集められます。世界中にバイリンガルの人はたくさんいるけど、全員が翻訳家として働いているわけではありません。
学生だったり主婦だったり、なんらかの理由でフルタイムでは働けない人たちも、Gengoなら空いてる時間に好きな分野の仕事を選び、クイックに仕事ができます。まさに、こういう状況→ 「戦力外労働力の参入が始まる」が、起こっているのです。
インタビュー前は「一定レベルの翻訳ができる人を大量に集め続けるのって大変なのでは?」「それが急成長の制限要因になるのでは?」と思っていたのですが、依頼は毎年 3倍のペースで伸びているのに、翻訳担当者集めは順調な様子。
「どうやって探してるの?」と聞いたところ、Linkedinや Facebookなどの SNSで、二カ国語(複数語)登録をしている人のページにターゲット広告を出しているとのこと。
「なるほどなー」って思いました。ちきりんは今まで、この実名 SNSの広告にはウザい印象しかもっていませんでした。あたしのページには“しわ取りクリーム”やら“おなか周りの贅肉をとる方法”ばかり表示し、20代独身男性のページには結婚相談所と萌え系ゲームばっかり表示する。「何なのコレ?」と思っていたんです。
でも確かに、「複数言語を操る人を広く募集したい!」といった用途にはぴったりですよね。
今回のインタビューで得た気づきは、「ひとつの新しいネットインフラが整うと、それまで不可能だった、次のネットサービスが可能になるんだな」ということです。
たとえば Gengoは2008年の創業で、まだたった 5年の歴史です。こんな「すばらしー!」サービスを、なぜ 5年前まで誰も始めてなかったのか、ちょっと不思議になり、「なぜだと思う?」って聞いてみました。
そしたら、「いろんなネット環境が整ってきて、初めて可能になってきたんだと思う」とのこと。
たしかに、多くの人が Facebookや Linkedinに自分のプロフィールを入力していなければ、翻訳能力のある人を大々的に募集することはできません。
さらに、数千円とか数万円といった低予算依頼の多い Gengoのようなサービスにとって、paypalというネット上の少額決済インフラなしには、ビジネスが成立しえなかったかも。
隙間時間に仕事をしたいと考える翻訳担当者も、スマホがなければ仕事を受けることができません。
paypalだったり Facebookだったり iPhoneだったりと、いろんなサービスや新商品が現れ、それがインフラとなって、初めて“次の”画期的なサービスが可能になる、というわけです。
そして「そういったサービスが現れたから、Gengoのようなサービスが可能になった」と同時に、「 Gengoのようなサービスが現れたから、新たに可能になるサービスやビジネス」も生まれます。
下記は、現在の Gengoの3種類の顧客カテゴリーです。
左側は、個人がウエブサイトを通して直接、翻訳を依頼するケース(BtoC)
右側は、企業がA P I (Application Programming Interface) を使って翻訳発注をするケースです
最近は特にAPI経由のリクエストが伸びており、翻訳量の半分を超え始めているとか。
APIには二種類あって、企業がレビューやコメントの翻訳を( API経由で)依頼するケース。たとえば旅行関連の口コミサイトであるトリップアドバイザーは、海外進出する際、ホテルの評価コメントをその国の言葉に翻訳するために Gengoを使いました。この場合、翻訳料は企業が払います。
もうひとつは、企業を通して個人が API経由で翻訳を依頼するケースです。たとえば、あなたが youtubeに日本の料理方法を説明した動画をアップし、そこに日本語字幕で説明をいれていたとしましょう。
「その字幕を、英語やフランス語やスペイン語に訳したい! そしたら海外の人も、あたしの動画を見てくれるかも!?」と考えた場合、youtubeの管理画面から Gengoに翻訳を依頼できます。このケースでは、翻訳料を払うのは youtube (Google) でなく、個人です。
前も書いたけど、一定の質の翻訳が気軽に頼めるようになると、今は国内のみに向けて発信している人の多くが、世界に向けて発信できるようになります。
youtubeでは、ダンスの巧い日本の女の子がアジアで大人気になってるけど、これからはテキストが介在する分野でも同じことが可能になる。ネットショップや情報サイトを多言語展開したり、自分のブログ記事の一部を中国語や英語に翻訳してみたりね。
どうですか? これで、翻訳にかかった時間は数時間、値段は千円です。“ちきりん”だということは伏せて依頼したので、特別扱いは受けていません。これを見る限り、ブログの翻訳ならスタンダードクオリティで十分だとわかります。
(依頼の際、ファイルアップロードなどでトラブルが発生しました。その問題が解決し、実際に翻訳が始まってからの時間が数時間です。また、トラブル発生後のサポートに関しては、満足のいく対応をしていただきました。もちろんこの対応も“ちきりんだから”ではありません)
あなたもブログの記事をひとつくらい、他言語に訳してみてはどうでしょう?
もしくは、手始めにツイートをひとつ訳してみるだけでも、おもしろいかもしれません。
楽しい時代がやってきそうです。
そんじゃーね!
原文はこちらをご覧ください